現在、電波を用いる機器はテレビ、ラジオ、携帯電話、WiFi ... など身近にも沢山あるが、そのすべてにアンテナがついている。アンテナには様々な大きさ・形状のものがあり、また、電波が目に見えないこととも相まって、アンテナがどのような原理で動作しているのかを直感的に理解することは難しい。
この勉強会では、実例を交えながら以下のことについて見てゆく。
イギリスの物理学者マクスウェルは、1864年にそれまで知られていた電気・磁気に関する現象を統一的に記述できる4つの方程式を提唱した。
マクスウェルの電磁方程式 | ||
∇・D(t, x) = ρ(t, x) | 電荷のまわりに電界が発生する | クーロンの法則 |
∇・B(t, x) = 0 | 磁気はN極、あるいはS極だけの単独で存在しない | 磁気単極子の非存在 |
∇×E(t, x) = −dB(t, x)/dt | 磁界が変化すると電界が発生する | ファラデーの法則 |
∇×H(t, x) = ρ(t, x) + dD(t, x)/dt | 電流、そして電界の変化とで磁界が発生する | アンペールの法則+変位電流 |
マクスウェルは、4番目の式で「変位電流」と呼ばれる概念を導入した。何もない空間に変位電流が流れていると仮定すると、様々な電磁現象を矛盾なく説明することが可能になる。
そして、3番目の4番目の式を組み合わせると電界の変化と磁界の変化が波動として伝わってゆくことが示される。これが電波(電磁波)である。
電波が発生する様子を図示すると以下のようになる。
発生した電波のうち、右方向に進むものだけに着目すると、下図のようになる。
電界、磁界共に進行方向と直角の成分を持つことから、電波は横波であることがわかる。また、電界と磁界も直交している。
1888年、ドイツの物理学者ヘルツが実験によって電波の存在を確認し、これ以後の電波技術発展の基となった。
電波は以下のような性質を持つ。
波長[m]=300/周波数[MHz] |
半波長ダイポールアンテナは電波の発生機序をそのまま実現した基本的なアンテナで、現在使われているアンテナの大部分はこのダイポールアンテナを基礎としている。
ダイポールアンテナは、1/4波長の長さを持つ棒状の素子が給電線の先端に2つ取り付けられている。2つの素子は直線上に配置され、素子間は絶縁された構造となっている。
このアンテナから電波を送信している時の電流は中央部で最も大きく、逆に電圧は先端部で最も大きい。
このような動作をするアンテナを「共振型アンテナ」、または「定在波アンテナ」と呼ぶ。共振型アンテナは特定の波長で能率よく動作する*3。
アンテナには様々な特性があり、それらがアンテナの性能を把握する上での要素となる。
以下にダイポールアンテナを例にとり、それらの特性を説明する。
アンテナの種類は非常に多いが、その中の大部分を占める共振型のアンテナについては、最初に説明した半波長ダイポールアンテナの変形として考えることができる。
これらのアンテナはそれぞれ特徴を持ち、実際に使用する用途に適した特徴のアンテナが選択される。
また、性能向上のためや、運用上発生する制約に対応するために基本的なアンテナにアレンジを加えたり、数種類のアンテナを組み合わせて使用する場合も多い。
モノポールアンテナはダイポールアンテナを半分にしたもので、下図に示すように給電線の片方に1/4波長の素子を接続し、もう片方の給電線を接地(無限大の大きさを持つ平面導体に接続)するなどして使用するものをいう。
モノポールアンテナの電圧・電流分布や指向特性はダイポールアンテナと同等、負荷インピーダンスは半分の約36Ωとなる。
垂直に設置したモノポールアンテナは水平方向に最も利得があり、方角で見ると無指向性である。このため、移動体通信や同報、放送などの用途によく用いられる。また、構造がシンプルなため携帯機器でも多く採用される。
アンテナを設置する場合、サイズが大きくなりすぎる、必要なスペースが確保できない、接地が確保できない、などの制約が課せられる場合がある。
このような問題に対応するため、以下のような方法が考案されている。
素子の変形 | |
逆L型アンテナ 例: 海保航空基地 | T型アンテナ |
接地面の代替 | ||
ブラウンアンテナ | スリーブアンテナ 例:海保航空基地 | h型アンテナ |
利得の向上 | |
5/8波長アンテナ コンデンサを挿入し、整合を取る | コリニアアレイアンテナ 例:放送局本社 |
一波長ループアンテナは1波長の長さの素子を円形にし、素子の両端に給電線を接続したものである。
素子の形は必ずしも円形である必要はなく、方形等であってもよい。
このアンテナを上下2分割してみると、1/2波長ダイポールアンテナをスタックしたものと考えることができる。
一波長ループアンテナはループ面と垂直方向に指向性を持ち、利得はダイポールアンテナより大きい。偏波は上図の場合、水平偏波となる。
これらの特性は、ダイポールアンテナをスタックしたと考えた場合と一致する。
なお、ループアンテナにはこのアンテナとは別に「磁気ループアンテナ」というものがある。 アンテナとしては別物なので注意が必要。
ダイポールアンテナの後方に折り曲げた平面導体を配したアンテナで、ダイポールアンテナから放射された電波が反射されるため、導体と反対方向に指向性を持ち、同時に利得が発生する。
反射器として、平面導体の替わりに導体棒の配列や導体網を用いる場合もある。
八木アンテナは半波長ダイポールアンテナの前後に、それぞれ導波器(director)、反射器(reflector)と呼ばれる導体棒を付加したものである。ダイポールアンテナは輻射器または放射器(radiator)と呼ばれる。
導波器は輻射器より5%ほど短かく、反射器は5%ほど長い。指向性は導波器方向に表れる。
導波器の数を増やすことによって、指向性を鋭くし利得を上げることができる。
八木・宇田アンテナのバリエーションとしては、反射器と導波器にコーナーリフレクタを使用したものや、全ての素子にループアンテナを使用したものなどがある。
八木・宇田アンテナ |
REF:反射器、RAD:輻射器、DIR:導波器 |
例:コミュニティFM放送、テレビ視聴設備、防災無線 |
遠方から到達した電波は放物面の導体で反射させると一点(焦点)に集中する。 また、焦点から電波を放射させた場合、波面は平面となり距離による減衰が少なくなる。
この原理を利用したのがパラボラアンテナで、焦点に設置するアンテナを一次輻射器と呼ぶ。
一次輻射器は、反射面に指向性を持たせたアンテナ(八木・宇田アンテナや電磁ホーンアンテナなど)がよく使用される。
パラボラアンテナは、反射面の面積が大きくなる程、指向性が鋭くなり利得も上昇する。
また、複数の一次輻射器を取付けたり、特殊な形状の反射面を用いることで希望の指向性のパターンを得ることができる。
パラボラアンテナ |
例:INMARSAT衛星局、テレビ視聴設備、宇宙通信 |
逆Lアンテナの項で説明したように、携帯機器では回路基板に作り込めるアンテナが有用だが、マイクロストリップアンテナもその一種。
このアンテナは、誘電体(絶縁物)の基板に回路パターンとしてアンテナを形成する。下図のように、アレイ構造とすることで高い利得を得ることもできる。
逆Fアンテナは、基本的な構造は逆Lアンテナに似ているが、素子端を接地し、素子の途中から給電することで整合を取りやすくしている。
これまで説明したアンテナは全てダイポールアンテナを基本とする共振型アンテナだが、他には別の原理で動作し、共振を用いないアンテナもある。
それらのアンテナについて、以下にかいつまんで説明する。
説明に使用したアンテナの写真集